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最高裁判所第三小法廷 昭和38年(あ)1593号 決定 1965年10月05日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人武井定光の弁護人三根谷実蔵、同千葉清雄の上告趣意一、は、憲法一三条違反をいうが、その実質は事実誤認およびこれを前提とする単なる法令違反の主張であり、同二、は、単なる法令違反の主張であって、いずれも適法な上告理由に当らない。

被告人河村豊の弁護人松本英夫、同高山盛雄の上告趣意第一点は、事実誤認の主張であり、同第二点は、単なる法令違反の主張であり、同第三点は、量刑不当の主張であって、いずれも適法な上告理由に当らない。

(原判決およびその是認する第一審判決は、いわゆる「見せ金」利用による会社の設立は会社設立に関する資本充実の原則に違反し、会社設立の無効原因となるものであるから、これを適法に会社が設立せられたものとして会社設立登記を申請、完了することは、公正証書原本不実記載罪を構成する旨、それぞれ判示するところがあるけれども、本罪の成否については、もともと個々の登記事項毎にその不実の有無を論ずれば足り、設立の登記自体が不実であるか否かを問題とすることは必ずしも必要ではないものと解するのが相当であって、本罪の成否につき会社設立の無効ひいて設立登記自体の不実を云為する右各判示は、適切を欠くものといわなければならない。しかしながら、第一、二審判決の各判示および第一審判決挙示の諸証拠によれば、本件太平化学工業株式会社の設立登記に際しては、少なくとも発起人の大部分並びに一般募集にかかる株式の引受に関する限り、その実体を備えておらず、右会社の発行済株式〔総数一〇万株、金額五、〇〇〇万円〕の払込が完了した旨の本件株金保管証明書はその事実がないのにこれを仮装したものであり、創立総会も現実には開かれておらず、従って取締役等、会社機関の選任なども行なわれていなかったことが明らかであって、かような事実関係のもとにおいては、太平化学工業株式会社なるものは不存在というほかなく、その設立登記がなされてもその登記事項はすべて不実のものであり、その全部につき公正証書原本不実記載罪が成立する場合であるから、本罪の成立を認めた第一、二審判決は結局において相当であり、本罪の成立を否定する趣旨の論旨は採用の限りでない。なお、昭和三九年(あ)第一八五四号同四〇年六月二四日第一小法廷決定参照)。

また、記録を調べても刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柏原語六 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎)

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